■内容は評価できる実教出版の日本史教科書の問題箇所の補完教材
「実教出版」の高校日本史教科書で問題となった箇所、国旗掲揚、国歌斉唱について、「一部の自治体で公務員への強制の動き」があるとして、府教委として、学習指導要領の趣旨や起立斉唱を求めた職務命令を合憲と認めた最高裁に言及がないことから、この教科書について「一面的てある」と見解を示し、結果的には以下の補完教材を使用することとなった内容が府教委のWebページに掲載されたので、紹介する。なかなか、的を得た内容となっており、対象生徒全員、来年は9校、今年度は5校全員に配布の上、教員が同教材を使用し、生徒の理解を深めるための指導を行うものとなっている。
この内容であれば、実教出版の教科書を使用している生徒だけでなく、府立高校生全員が学習すべきだと考える。府教委もその気になればきちんとした資料を提供できるのである。
ただし今度は授業結果の検証となり、補完教材が確実に使用されたかどうかを校長が確認し、教育委員会へ書面で報告するとのことであるが、校長がきちんと報告ができるのかがポイントである。
■補完教材
[別 紙]
本書は、実教出版高校日本史A教科書の185ページ⑥印(もしくは高校日本史B教科書の247ページ⑥印)で示された記載につき、補足をする文書です。
該当個所では、「国旗・国歌法が憲法第19条の思想・良心の自由(公民教科書該当ページを各学校で記入する。以下同様)に違反するおそれがあり、日本政府が国民には国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないと国会審議であきらかにしたにもかかわらず、一部の地方自治体では公務員に強制する動きがある」との趣旨の記載がなされています。
この記載に関する事実関係を整理すると以下の通りです。
平成11年に国旗は日章旗、国歌は君が代と認める国旗・国歌法が成立した後、大阪府では平成23年に大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例が制定されました。
条例は、各地方自治体の選挙を通じて選ばれる住民の代表者である議員によって構成される議会が多数決によって決議する法です(公民教科書該当ページを各学校で記入する)。
この条例に基づき大阪府教育委員会は府立学校で勤務する公務員(生徒・保護者は対象ではありません)に対し、入学式及び卒業式等、国旗を掲揚し、国歌斉唱が行われる学校行事において、起立して国歌を斉唱することを命じる職務命令を発しました。つまり、議会が成立させた条例(法)を、行政機関である教育委員会が国民ではなく公務員に対して執行したのがこの職務命令です。
議会で正式に成立した条例を行政機関が執行する場合、当該条例の執行が憲法や法律に違反していないかを別の独立した機関が判断しうることが必要であり、この判断権を持つのが裁判所です(裁判所の司法権)(公民教科書該当ページを各学校で記入する)。
国民・住民の代表者が議員を選挙で選び、この議員によって構成される議会が立法権を持ち、立法府が制定した法を、行政権を持つ行政機関が執行し、その違法性を審査する権限(司法権)を裁判所が持つことにより、権力の相互抑制を実現しているのが三権分立の考え方です(公民教科書該当ページを各学校で記入する)。
最高裁判決平成24年1月16日(懲戒処分取消等請求事件)の裁判では、東京都立学校校長による国旗掲揚、国歌斉唱の職務命令が憲法第19条の思想・良心の自由の侵害にあたるかが争点になりました。
つまり、職務命令が違法なのではないかという点を最高裁判所に判断してもらうための裁判が行われたのです。その結果、判決では、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱するという職務命令は、憲法第19条の思想・良心の自由を侵害するものではなく、合憲であるという判断がなされ、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱するという職務命令の合憲性が確定されました。
この判決により、同趣旨の職務命令を発令した大阪府の職務命令及び大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例の合憲性が確認されたと解されます。
一方で、条例に批判的な意見をもつ人々は表現の自由(憲法第21条)(公民教科書該当ページを各学校で記入する)などの権利を行使して自分の意見を述べることができます。
このように、意見の分かれる事項について議論し、憲法・法律・条例といった法に従った適正な手続きを経て、国民・住民が意思決定するというのが民主主義の考え方です。
今回は、当該記載の事実関係につき、補足が必要であるとの考え方に立ち、皆さんにこの補助教材を提供する運びとなりました。生徒の皆さんには、三権分立、表現の自由、民主主義といった制度や考え方をご自身で考え、理解を深めていただきたいと思います。