■「海賊と呼ばれた男」に流れる誇り高き日本人の姿
久しぶりに引き込まれる小説に出会った。
このノンフィクション歴史小説は、ご承知の通りベストセラー作家、百田尚樹によるもので、昨年度本屋大賞を受賞した著書である。従って全国書店のほとんどの店員が目にし、最も支持のあった本である。小生は今日という時代の中で、読めば日本人の誇りを感じることができ、自分の中にもその血が流れていることを共感できる人々がいることに、日本もまんざらでないことを実感している。
この小説は今日の出光興産創立者の出光佐三氏の幼少から、戦後日本の中で興産として揺るぎない位置を占めるまで至った一代記といっていい。この小説の中では実名を出さずに、佑三は国岡鐵造、興産は国岡商会として描いている。丁稚奉公、支援者の経済的支援、石油を小売商いし、戦前には統制経済の中、満州、台湾への進出を果たし、国岡商会の販路を広げたが、敗戦により全ての海外の資産は失うこととなる。
しかし鐵造は、社員の一人も馘首をせず、ラジオ修理、戦後残った石油タンクの浚いをするなど、なんとか経営を維持し、今度は国際石油メジャーの包囲網から民族資本を守り続け、イランからの石油の積み出しや製油所を建設したり、石油連盟脱退をする中、最終的に今日の石油供給の自由化の先駆けとなっていった物語を鐵造と国岡商会を中心に次々とふりかかる問題を解決していくところが、非常に誇りあるものとして迫って来る。
鐵造は、自分の人生は限りない「人間尊重」につながっているものと振り返っているが、今の浮薄化したものではなく、あくまでも国家の命運が石油を国民に供給することを通じて自分の肩にかかっているこという基本の生き方を変えていない。戦後の経済成長とは、時代がそうしたのではなく、多くの気骨ある日本人の活躍によって成り立ったことを痛感した。
またもう一つ、この小説では処女作「永遠なる0」の主人公で、娘と妻にもう一度、会うために戦った零戦の乗組員、宮部久蔵少尉が戦中に国岡商会の社員と出会う場面が印象的に書かれていて、結局、著者の百田氏は一貫して宮部少尉の願いを書きたかったのではしないかと直感した。
それにしてもこの小説は上・下あるのだが、一気に読みこめる圧力を持っている。どんなに忙しくとも、日本人が読まねばならない著書である。